エラリイ・クイーンの『九尾の猫』(1949)を越前敏弥氏の訳(ハヤカワ文庫、2015年)で読み直した。ここでは、おそらくはあまり指摘されているとは思えない、クイーン作品群における本作独自の位置を取り出してみたい。この傑作と言って良いだろう探偵小説は実のところ、彼が取り組んできたある「テーマ」の行き着いた形を示している。行き着いてしまったがゆえに、そもそもそのテーマの作品であるということが、気づかれないほどに。
以下、本作に限らず、クイーンの代表作の幾つかについても「ネタバレ」を行うため注意されたい。具体的には『Yの悲劇』、『ギリシア棺の謎』、『災厄の町』。『十日間の不思議』の四作である。
【以下、諸作品の真相に触れる】
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