Superposition de la philosophie et de ...

中村大介による哲学と他のものを「重ね合わせ」ていくブログ。目下は探偵小説の話題が中心になります。

ある極北:エラリイ・クイーン『九尾の猫』について

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 エラリイ・クイーンの『九尾の猫』(1949)を越前敏弥氏の訳(ハヤカワ文庫、2015年)で読み直した。ここでは、おそらくはあまり指摘されているとは思えない、クイーン作品群における本作独自の位置を取り出してみたい。この傑作と言って良いだろう探偵小説は実のところ、彼が取り組んできたある「テーマ」の行き着いた形を示している。行き着いてしまったがゆえに、そもそもそのテーマの作品であるということが、気づかれないほどに。

 以下、本作に限らず、クイーンの代表作の幾つかについても「ネタバレ」を行うため注意されたい。具体的には『Yの悲劇』、『ギリシア棺の謎』、『災厄の町』。『十日間の不思議』の四作である。 

【以下、諸作品の真相に触れる】

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繰り返される言葉の意味:エラリイ・クイーン『災厄の町』について

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 エラリイ・クイーンの傑作『災厄の町』(1942)について感想を書きたいと思います。なお完全ネタバレありです。というよりもネタバレしかしていません。丸括弧内の算用数字は越前敏弥氏の訳(ハヤカワ文庫、2014年)の頁数を示します。それでは始めます。 

【以下、作品の真相に触れる】

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