Superposition de la philosophie et de ...

中村大介による哲学と他のものを「重ね合わせ」ていくブログ。目下は探偵小説の話題が中心になります。

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

迷霧としてのテクスト:アガサ・クリスティー『ホロー荘の殺人』

『ホロー荘の殺人』(1946)は、アガサ・クリスティーの全盛期と言える1940年代に書かれた傑作である。この記事では、ミス・ディレクションの機能を主軸にした分析によって、本作がクリスティーの最高点の一つをマークした作品でもあることを示せればと思う…

文字か図像か、真実か偽装か:アガサ・クリスティー『NかMか』

今回はトミー&タペンスものの長編第二作、『NかMか』(1941)を取り上げる。第一作『秘密機関』(1922)からの大きな飛躍を示したこの作品は、全盛期クリスティーの優れた叙述の才が、エスピオナージュ(・パロディ)において発揮された傑作である。ここで…

第二期の出立:アガサ・クリスティー『エッジウェア卿の死』

今回は『エッジウェア卿の死』(1933)を考察する。この作品は、独創的なトリックを、1940年代のクリスティー全盛期へと通ずる優れた探偵小説の記号群によって支える構造になっており、かなりの秀作である(もっと後の時期の作品と言われてもおかしくない出…

三つの細やかな変奏:アガサ・クリスティー『メソポタミヤの殺人』

今回取り上げるのは、アガサ・クリスティーの『メソポタミヤの殺人』(1936)である。この長編は傑作とも秀作とも言い難いが、それでもこの時期の彼女の試みが分かる、興味深い佳品である。ここでは、本作を三つの先行作との関係で簡単に論じたい。 参照する…