Superposition de la philosophie et de ...

中村大介による哲学と他のものを「重ね合わせ」ていくブログ。目下は探偵小説の話題が中心になります。

「記述者=犯人」ものと叙述トリックの関係について

 「記述者=犯人」ものと叙述トリックの関係について、以前考えたことを備忘代わり
にまとめておく
 
 「記述者=犯人」の作品では、作品内の事件とは別に、その事件を記述すること自体が(読者にとって)事件になる、という二つの異なったレベルの「事件」が存在するように思われる。言い換えればその作品では、〈事件を起こす犯人〉と〈その事件を記述するという事件を起こす犯人〉とが重なり合っている
 そして叙述トリックとは、この重なり合いが解け、「二分化」したものではないか。すなわち、〈作中で事件を起こす犯人〉と〈その事件を記述するという事件を起こす作者〉といったように。
 この関係性が正しいとするなら、「記述者=犯人」ものは〈原〉-叙述トリックと言えるように思われる。
 
 作品内の事件と重なり合いつつも、そこから逸脱するもう一つの「事件」をどう明確化するか ー これは今後の課題である。
 
【追記】ひとまず簡単に述べれば、叙述トリックの作品においては、探偵が読む記述と読者が読む記述の間に隔たりがあり、読者は探偵と異なった記述の内容 ー 探偵小説においてはすなわち「事件」ー を、(例えば「男性と思われていた人物が実は女性だった」という形で)特定しなければならない、ということである。
 いずれにせよ、叙述トリックにおいては水準の異なる二つの(作品によってはそれ以上の)事件が存在する、という点は重要と思われる。