Superposition de la philosophie et de ...

中村大介による哲学と他のものを「重ね合わせ」ていくブログ。目下は探偵小説の話題が中心になります。

逮捕一週間前、パリでの会話—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (15)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第12章の…

「自由フランス」との接触—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (14)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第12章の…

収容所からの脱走—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (13)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第11章で…

虜囚中の哲学書起草—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (12)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第10章の…

全盛期のとば口に立つ:アガサ・クリスティー『もの言えぬ証人』

今回取り上げるのは、アガサ・クリスティーの1937年の作品『もの言えぬ証人』である。長編作品としては、以前論じた『ナイルに死す』一つ前の作品であり(刊行は同年)、本作も無論のこと優れた、面白い作品である。ただ、かの女の「全盛期」の作品群に比べ…

レジスタンス活動の開始—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (11)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第10章の…

夜の踊り—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (10)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今日は第9章で…

博士論文の完成と戦争の足音—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (9)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第8章を…

数理の研究と政治情勢の緊張—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (8)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第7章で…

スピノザと音楽—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (7)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第6章で…

フッサールと会う—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (6)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第5章の…

フレンケルへの手紙—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (5)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第5章の…

現象学者との邂逅—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (4)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、今回は第4章の…

数学の現代的展開の研究へ—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (3)

実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者ジャン・カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003)の要約、本日は…

エコル・ノルマルの日々—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (2)

昨日より始めた、実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者ジャン・カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, Félin, 2003…

幼年期と青年期—フェリエール『カヴァイエス:戦中の哲学者』要約 (1)

思うところあり、今日から、実姉ガブリエル・フェリエールによる数理哲学者ジャン・カヴァイエスの評伝『ジャン・カヴァイエス ― 戦中の哲学者 1903-1944』(Gabrielle Ferrières, Jean Cavaillès. Un philosophe dans la guerre 1903-1944 [1950], Paris, F…

思想論としての探偵小説、あるいは探偵小説の思想:笠井潔『哲学者の密室』

今回は笠井潔氏の矢吹駆シリーズ第四作、『哲学者の密室』(1992)を取り上げる。多様に論じうる原稿用紙三千枚のこの大作の中で、ここではとある一点 ー 探偵小説としてのロジックの中心をなす箇所 ー に着目し、いかにして探偵小説と思想論とがそこで巧み…

時を越えた継承:大山誠一郎『時計屋探偵の冒険』

今回は、大山誠一郎氏の『時計屋探偵の冒険:アリバイ崩し承ります2』(2022)に収録されている傑作短編「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」を、とある作品との関係でごく簡単に取り上げる*1。 その「とある作品」とは1983年刊行の長編である。ここではそれ…

「見立て殺人」の一到達点:笠井潔『サマー・アポカリプス』

今回は笠井潔氏の矢吹駆シリーズの第二作目にして傑作『サマー・アポカリプス』(1981)を取り上げる。前回『バイバイ、エンジェル』を論じた際は、このシリーズ第一作目が通常扱われる際のサブジャンル=「首なし屍体もの」とは、敢えて異なった視点から考…

ある反転的展開:鮎川哲也『りら荘事件』

今回取り上げるのは鮎川哲也の『りら荘事件』(単行本1958)である。この長編は紛れもない傑作であり、それどころか、同著者の『黒いトランク』(1956)と並び、探偵小説というジャンルの最高峰に位置する作品と言える。この作品を、最近の複数の記事に共通…

戦場の空間を都市の時間に変えるもの:アガサ・クリスティー『ABC殺人事件』

今回取り上げるのは、アガサ・クリスティーの名高い秀作『ABC殺人事件』(1936)である。 クリスティーのポアロものには本作を含め、きわめて有名な作品が3作(名を挙げるまでもないだろう)あるが、クリスティーを読めば読むほど、かの女の全盛期はこれらの…

〈盲点原理〉をめぐって:エドガー・アラン・ポオ「盗まれた手紙」

エドガー・アラン・ポオの古典的傑作「盗まれた手紙(The Purloined Letter)」(1845)を原文で読み直した。前回の投稿でチェスタトンの『ブラウン神父の無心』とこの作品の関係に触れたが、改めて今回、ポオの再読を踏まえて両者の関係を明示化したい(し…

【補足記事】「隠す」とは何か、「見えない」とは何か:G・K・チェスタトン『ブラウン神父の無心』再び

この記事は先日投稿した、チェスタトン『ブラウン神父の無心』に関する記事の補足である。可能であればそちらを先にお読みいただきたい。この記事の内容は、(1)前回触れた、本作における「隠すこと」及び「見えないこと」に関するトリックの内実をより明…

かくも多き不在:アガサ・クリスティー『邪悪の家』

アガサ・クリスティーの『邪悪の家』(1932・別題『エンド・ハウスの怪事件』)を読み、ノートを作った。この作品は「傑作」や「秀作」とまでは言えなくても、探偵小説の歴史を振り返ると、興味深いポイントを含んだ佳作であることが分かる。ここではその興…

供儀の場としての装幀:菊地信義氏の仕事をめぐる一つの断想

装幀者・菊地信義氏が亡くなった。昨年二月に出した自著『数理と哲学:カヴァイエスとエピステモロジーの系譜』(青土社)の装幀は氏の手になるものである。最初の本を出す機会があれば、その装幀は是非菊地さんに、と私はかねてより思っており、本を出す際…

隠すことと見えないこと:G・K・チェスタトン『ブラウン神父の無心』

思うところあり、ギルバート・キース・チェスタトンの『ブラウン神父の無心』(1911)を(何度目か分からないが)読み返した。ここでは三つの作品を中心に、この探偵小説史上屈指の名短編集について少し論じてみたい。 それら三作品とは、「折れた剣の招牌」…

もう一つの極北:笠井潔『バイバイ、エンジェル』

笠井潔氏の矢吹駆シリーズの新作『煉獄の時』が近々出るとのことで、シリーズの読み返しを始めている。今回は記念すべき一作目、『バイバイ、エンジェル』(1979)について少しまとめておこうと思う。周知のことの振り返りという側面もあるが、第2節以降で提…

三つの記号:アガサ・クリスティー『ナイルに死す』

アガサ・クリスティーの『ナイルに死す』(1937)を再読した。巧みなストーリーテリングに支えられた人気作であり、トリックもクリスティーの生み出した中では有名なものだろう。ここでは、これまでの彼女の作品の分析同様、あくまでも伏線やミス・ディレク…

「ホワットダニット」とは何か:アガサ・クリスティー『バートラム・ホテルにて』

この記事では、アガサ・クリスティーの『バートラム・ホテルにて』(1965)の考察を通して、「ホワットダニット」と呼ばれる探偵小説における特殊な「謎」のあり方について考えてみたい。この作品は大傑作とは言えないまでも、「ホワットダニット」を中心的…

「笠井潔『バイバイ、エンジェル』パリ草稿ノート発掘」を読んで:ひとまずの走り書き

『ジャーロ』第80号に掲載された「『バイバイ、エンジェル』パリ草稿ノート発掘」を読んだ。笠井潔氏の『バイバイ、エンジェル』は物理学者になろうとしていた私を哲学者へと方向転換させることになった、私にとって紛れもない「青春の書」であり、この本に…